【ネタばれ】映画「検察側の罪人」鑑賞、感想
少し前に「検察側の罪人」を観に行ってみた。
最初に断っておくと、出演役者の特別なファンではないです。
原作も未読で、前情報全く無しの状態で鑑賞しました。
先に言います、面白かったです。
格好悪い木村拓哉がいた
木村拓哉さんは「なにをやってもキムタク」と言われるけれど、それは必ずしも悪いことではなくて、それほどキャラクターが強いということだと、私は思っています。
事実、彼はそれで結果も出してきたのだし。
色々な役ができる所謂「カメレオン俳優」は沢山いるわけで、そこは使い分けでいいじゃないかと。
この作品でも基本的には格好良い役柄なのだけど、今回はそれだけの役ではなかった。
怒りや憎しみといった感情を時に強く表現し、逆にそういった感情を隠しながら格好良く振舞うといったことが求められた役柄のはず。
怒りが爆発し、憎しみに支配されていく様は、うまく表現できていたように思います。
この映画で、私は初めて、木村さんの格好悪いところを見た気がしました。
(以下、超絶ネタバレ)
「罪人」となろうとする時、木村さんはそのプレッシャーや罪悪感等から、嘔吐します。
人生で初めて銃を握り、初めて殺人を犯すとき、木村さんは緊張し動揺します。
スタイリッシュにバーン!一発命中!とはいかず、震えた手でバン!
当然弾はズレ、撃たれてすぐに相手は絶命せず悶え叫びます。
ミスったこと、相手が死んでいないことに焦り、バン!バン!と連射。動かなくなった相手。「死んだ」と思った時には、安心感やら何やらで腰砕け。
その後、タンクトップ姿で泥まみれになりながら、スコップで穴を掘り死体を埋める…。
夜は朝に。へとへとで泥まみれの木村さん。
車でその場を去ろうとするも、車がパンク。その衝撃で気絶。ぐう…。
リアルだけど、格好悪い。
初めて殺人を犯す場合、おそらくはこのように焦って上手くいかないと思うのです。
しかし「キムタク」ならば、躊躇なく標的に一発お見舞いし、急所に一発ズキューン!クールにお始末!しそうなもの。
ですが、そうはいかなかった。今作は木村さんなのです。
「いいもの見たな」と何故か得した気分です。
こうして、木村さんは「検察側の罪人」へ成っていくわけですが、罪人であることを当然周囲に隠します。
ここから、個人的には物足りなかったです。
よく言えば「この人随分と隠すのが(切り替えるのが)上手いな…あんだけ取り乱していたのに…」です。
切り替えるのが早い人なんだよ!と言われりゃそれまでですが…。
初殺人を犯した数時間後に、一線を越える前と変わらぬ「格好よさ」で颯爽と出勤し、その事件について自分の都合の良いように、若干強引ながら会議をリード。
突っ込んだ質問も、さらりとかわす。若干強引に。
その若干の強引さこそ、木村さんの焦りの表れと取れましたが、それは悪の便利屋との打合せ込みのプランであって。
もう少し心の葛藤なり、抱えた闇が演技から垣間見えたら…と感じました。
とか言いつつも、思ったより演技が上手い(失礼
演技派に囲まれて蜂の巣にされるのでは…と思いきや(失礼)、大健闘です。
やはり、華はあります。スターですね。
二宮和也という最強カード
本場アカデミー賞助演男優賞ノミネート、日本アカデミー賞主演男優賞
賞だけでいえば、木村さんより格上の役者です。
ジャニーズ俳優部門の最強キャラを持ってくる辺り、ジャニーズの本気を感じました。
正直、この映画が面白かったのは、二宮和也さんの力が大きかったです。
あの人この人に裏切られ、疑い、悩み、苦しみ…
演じてます感がまるでないのに、しっかり演じきっていました。
お見事です。伊達じゃねーなジャニーズの若きラスボス。
見どころ、二宮さんが容疑者を激しく取り調べるシーン。
それまで一貫して物静かで真面目だった二宮さんが、「相手を怒らせろ」という木村さんの指示を受けるや、相手を挑発し始め、激しく罵詈雑言をぶつけるシーンは圧巻でした。
その後、一瞬で冷静な姿に切り替わるまでがセット。圧倒されました。
この取り調べのシーン、特に演出指示もなかったそうで。
印象に強く残る台詞もアドリブだったと後で知り、お手上げです。
憧れの上司であった木村さんと、事件に関してぶつかり苦悩する姿も、自然。
検事を辞め、ちょっとしょぼくれた感じも、自然。
何をやっても、いい意味で、自然。
アイドルではなく、立派な役者だと感じました。
(本人は「自分はアイドルだ」と言い張っているようですが)
その他俳優陣もお見事
見事なキャスティング。よくもここまで揃えてきたもんだ。
画像:二宮和也と互角に渡り合う超個性派、酒向芳の「地獄の包容力」 | dmenu映画
特に、この物語のキーマンである酒向芳さん。写真上。
頭のネジが外れた卑劣な犯罪者を、見事に、絶妙に演じ切っています。
この方が、二宮さんに激しく取り調べられます。
その時の演技といったら。
犯罪を自白し恍惚とする様子には、寒気すら覚えました。
二宮さんに激しく責められる際の演技も、これまた独特かつ狂気に満ち。
二人の掛け合いで生まれた名シーンと言えます。
ちなみに吉高由里子さんは、二宮さんの事務官役のため、二人の掛け合いを横で見ているのですが、硬直し涙目になり震え怯えきっておりました。
これも場の緊張感を伝える最高のスパイスとなりました。上手い。
そう。取調室内、全員上手い。
他の皆さんも流石でした。
今年の日本アカデミー賞には、今作から助演で誰か一人はノミネートしそうです。
画像:映画『検察側の罪人』特集
時間が足りない
物語は非常に面白いのですが、時間が足りない印象です。
もっと見たかった。
もっとここ、掘り下げていいんじゃないの?と思う部分がありました。
逆に、あれどうなったの?なんでこうなってんの?と思う部分も。
状況から登場人物の心情や行動を、推し量るしかないような場面もあり…。
あれもこれも省けないならば、2つに分けるか。
もしくは何かをバッサリ省くか。
中途半端だと感じる方も多いかもしれません。
特に終盤、駆け足気味だと感じました。
問題のラストシーンの意味
原作のネタバレをちらっと読んじゃったのですが。
終盤に関しては、原作と話が大きく違います。
ラストシーンは、どういう意味があるのでしょう。
普通に考えたら、木村さんは二宮さんを殺そうとしていたのかと。
だって木村さん、二宮さんに黒だと確信されてるし。追及するとも言われたし。
むしろカミングアウトしちゃったし。場所も、人気のない山奥の別荘だし。
でも二宮さんは木村さんの別荘へ行くと他人に話しているに違いないので、ここで殺したらとてつもなく疑われるよなあ…とかも思ったり。はてさて。
想像の余地を残したエンドのため、賛否両論かと思います。
この映画は、何が善で何が悪かを問うような内容です。答えは出ぬまま終わります。
だから最後も曖昧で良いのだと思いました。
最後の二宮さんの雄叫びには、視聴者の「なにこれどうなんの?」も込められているということで。
結論:面白かったです
なんだかんだで、面白かったです。
劇場で集中して見られて良かったと思えた作品です。
ここまで散々書きましたが、二宮さんと酒向さんによる取調室のシーン。
肝心の木村さんは、取り調べの様子を別室で見ています。
その時の木村さんこそ「怒」「憎」「恨」といった負の感情が静かに大爆発するシーンであり、闇落ちする瞬間でもあります。
そういう意味でも、このシーンこそ、やはり一番の盛り上がりどころなのかなと。
このシーンでも、木村さんのアドリブが入ったそうです。このアドリブにより、役の感情の高ぶりがより伝わるものとなったと思います。
TVで放映される際には、また見たいなと思いました。
早口の会話で色々と説明される部分があり、一部聞き取れなかった部分もあったので。
(同じ早口でも聞き取れる役者、聞き取れない役者とおり、そこも役者の技量なのかなとか思ったり…)
「木村拓哉って、なにをやってもキムタクじゃん」と思っている人には、そういう色眼鏡を外して、見てみて欲しいなと。
何より周囲がガッチガチのガチなので、普通に楽しめると思います。
レイトショーで1,300円、悔いなしです。
ありがとうございました。